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大阪地方裁判所 平成5年(ワ)5740号 判決

主文

一  被告信用組合大阪商銀は、原告に対して、別紙物件目録記載一建物について大阪法務局東大阪支局平成四年四月弐日受付第四七六六号根抵当権設定仮登記の、同目録記載二建物につき同法務局同支局平成四年四月弐日受付第四七六七号根抵当権設定仮登記の、破産法による否認の登記手続をせよ。

二  被告信用組合大阪商銀の反訴請求を棄却する。

三  訴訟費用は、本訴反訴通じていずれも被告信用組合大阪商銀の負担とする。

事実及び理由

第一  申立

(原告の本訴請求の趣旨)

主文一項同旨

(被告の反訴請求の趣旨)

原告は、被告信用組合大阪商銀に対して、別紙物件目録記載一建物についての大阪法務局東大阪支局平成四年四月弐日受付第四七六六号、同目録記載二建物についての同法務局同支局平成四年四月弐日受付第四七六七号の各根抵当権設定仮登記に基づき別紙物件目録一、二の建物につき、別紙登記目録記載の共同根抵当権設定本登記手続をせよ。

との判決。

第二  事案の概要

本件は、請求の趣旨記載の建物(以下、一括しては「本件各建物」という。)に対して、被告信用組合が申立てた仮登記仮処分決定に基づき、被告の経由した根抵当権設定仮登記につき、原告は否認の登記を求め、被告信用組合は本登記請求を求めている事案であるが、この被担保債権は、本件各建物建築のためのものであったことから、被告信用組合は原告の請求を争い、反訴を申立てているものである。

(確定的事実―争いがないか、証拠上明らかな事実)

一  破産に至る経過及び登記関係

1  興亜工業株式会社は、平成四年四月二四日に、債権者から破産申立てにより、平成四年五月一四日午前一〇時三〇分、大阪地方裁判所において破産宣告を受け、原告は、同日破産者の破産管財人に選任された(大阪地方裁判所平成四年(フ)第一〇四四号)。

2  興亜工業株式会社は、平成四年三月二五日、被告信用組合布施支店を支払場所とする為替手形(甲第六号証の手形、額面額三六五六万五〇〇〇円、受取人東久株式会社)を資金不足で不渡りとした(以下「本件不渡り」という。)。

3  本件不渡り後の平成三年三月二七日、被告信用組合は、大阪地方裁判所に仮登記仮処分を申立て、同日その決定を得て、これに基づき別紙物件目録記載一建物について大阪法務局東大阪支局平成四年四月弐日受付第四七六六号根抵当権設定仮登記の、同目録記載二建物につき同法務局同支局平成四年四月弐日受付第四七六七号根抵当権設定仮登記(以下「本件各仮登記」という。)を経由した(甲第二号証の一、二の登記簿謄本)。

二  被告信用組合と興亜工業株式会社との関係

1  被告信用組合と興亜工業株式会社は、平成三年六月一四日信用組合取引約定を締結した(乙第一号証の信用組合取引約定書)。

興亜工業株式会社の代表取締役である康奉立(信川奉立)は、本件各建物の敷地及びその地上建物(旧建物)を所有していたところ、この旧建物を取壊して、興亜工業株式会社においてその敷地に新しく工場(本件各建物)を建築することを計画し、興亜工業株式会社が平成三年一〇月一一日に全国信用協同組合連合会から一億八〇〇〇万円を含め、その頃合計二億八〇〇〇万円の建築資金の融資を受けたが、被告信用組合は、右信用組合取引約定に基づきこの融資を受けるについて保証受託した(乙第二号証の一)。

2  興亜工業株式会社代表取締役である康奉立は、平成三年一〇月一一日、被告信用組合と、同人所有の土地(本件各建物の敷地である)及びその地上の建物(旧建物)について、興亜工業株式会社が右取引約定に基づき被告信用組合に負担することあるべき一切の債務(信用組合、手形債権、小切手債権)を被担保債権として、極度額三億円の共同根抵当権設定契約を締結し、その根抵当権設定登記(大阪法務局東大阪支局平成三年一〇月壱壱日受付第壱五参壱九号根抵当権設定登記)を経由(甲第二号証の一、二の登記簿謄本)した。

さらに、債務者を興亜工業株式会社、担保提供者を同株式会社代表取締役である信川奉立として、右敷地上に建物を建築した場合は、直ちに被告に追加担保として差し入れる旨の念書(甲第四号証)が被告信用組合に差し入れられた。

3  新築建物(本件各建物)は、平成三年一〇月一五日頃完成したが、興亜工業株式会社において担保の差入れを実行しないため、被告信用組合は仮登記仮処分を得たうえ、本件各仮登記を経由した。

なお、被告は、平成四年四月二三日に、全国信用協同組合連合会に一億八〇〇〇万円余を代位弁済している(乙第二号証の一、二)。

第三  主張

(原告の請求)

(原告の本訴請求原因)

被告信用組合は、本件不渡りを知っていたので、原告は、破産法による本件各仮登記につき破産法の否認による抹消登記手続を求める。また、否認されたことにより、被告信用組合の本登記請求は理由がなくなった。

なお、破産法七四条の権利変動の対抗要件否認の制度からすると本件のように仮登記処分を得てなされた場合でも否認の対象になる。

(被告の反訴請求原因)

被告信用組合は、本件仮登記についての本登記手続きを求める。被告の興亜工業株式会社に対する代理貸付は、本件各建物の建替え資金で、建替え費用のためのみに充てることが予定されていたのであって、破産債権者の共同担保になるのであれば、破産者である興亜工業株式会社に帰属し得なかった。よって、本件各仮登記は否認の対象にはならない。

第四  当裁判所の判断

一  被告信用組合は、興亜工業株式会社の本件不渡りを知って、その後の仮登記仮処分に基づき本件仮登記を経由したのである。

このような仮登記仮処分に基づく仮登記も、破産者がなしたる担保の供与と異なるところはなく、本件不渡り、その後の破産申立て、破産決定の経過に鑑み、被告信用組合の本件仮登記をなした行為は破産法七二条二項に該当するものとして、否認の対象となるべきものと認められる。

二  興亜工業株式会社の借受が本件各建物の新築を目的とし、当初から根抵当権設定登記が約束されていたので、この借受によって興亜工業株式会社の財産状態に変更はなかったとも評価できるが、そうだとしても、新築された建物は破産債権者の共同担保となり、本件仮登記によってこれが毀損されることになる(特に、本件にあっては建物が新築されてから登記がなされるまで六か月近く経過している。)ので、被告の行為が否認の対象となることは明らかである。

三  よって、原告の本訴請求は理由があり、被告の反訴請求は理由がないから、本訴請求を認容し、反訴請求を棄却し、訴訟費用について民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(別紙)

物件目録

一、東大阪市渋川町二丁目一七三番地一・同番地三

家屋番号    一七三番一の二

鉄骨造ストレート葺平家建工場

床面積           九三四・〇一m2

二、東大阪市渋川町二丁目一七三番地三・同番地一

家屋番号   一七三番三の二

鉄骨造鉄板葺三階建共同住宅事務所

床面積    壱階     一一六・三二m2

弐階     一〇三・六八m2

参階     一〇三・六八m2

(別紙)

登記目録

登記の目的   根抵当権設定仮登記

原因      平成参年壱〇月壱壱日設定

極度額     金参億円

債権の範囲   信用組合取引、手形債権、小切手債権

債務者     大阪市西区本田弐丁目壱〇番壱弐号

興亜工業株式会社

根抵当権者   大阪市淀川区宮原壱丁目壱九番壱参号

信用組合大阪商銀

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